B:不屈の暴走人形 インドミタブル
こいつをリスキーモブとして登録しようと申請してきたのは、高台にある「アミティー」という村の住人らしいな。そいつの証言によれば「インドミタブル」ってのは、コグー一家のドワーフが造った、採掘用オートマトンだそうだ。問題は、暴走しているのか、動く物を見境なく襲うってことさ。ドワーフは、ふたつの派閥に分かれて、くだらない争いを続けていると聞くからな……。大方、対立陣営の採掘を妨害しようとして、失敗したんだろうさ。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「ふうぅ」
あたしは額に浮かんだ汗を拭って一息ついた。動かなくなったオートマトンの確認をしていた相方も一通り確認を済ませて傍に来た。流石に頑丈でしぶとかったが、装甲に亀裂が入ってから動かなくなるまでは比較的早かった。あたしと相方はその場に座って飲物を飲みながら一息つくと、引いて来た荷車に動かなくなったオートマトンを乗せて、街道を抜けてナッツ・クランの事務所へと向かった。
この車輪の付いた蛙型オートマトンをリスキーモブに登録すべきだとナッツ・クランの事務所で長時間駄々をこねていたのはトップラング北東部のグルグ火山の麓の高台にポツンある「アミティー」というドワーフの集落の男らしい。ドワーフ族はエオルゼアでいうところのララフェル族のことで、採掘と掘り出した鉱石や鉄を冶金の技術を駆使して精巧なカラクリを製造するのが得意な種族だ。ララフェル族と違うのは職人気質な者が多く、自分や自分が所属する集団や派閥に対するプライドが高い。めったに領地から離れないので価値観も文化も保守的で派閥の掟にうるさい、ちょっと面倒臭い連中なのだ。事務所で駄々をこねていた奴も、我が強く、少しでも彼の考えに否定的なことを担当者が言うと顔を真っ赤にして怒ったらしい。
彼の通報を噛み砕くとアミティーの集落の傍にコグー一家というこれまたドワーフの家族親戚が集まった集落があるという。そのコグー一家が採掘用に製作したオートマトンが暴走なのか、はたまた何かのエラーが原因かは分からないが、とにかく目についた動くものを片っ端から、見境なく襲っているという。元々採掘用に作られているので丈夫な上に岩を砕くほどの力を持っていて危険で止められないのだという。そして彼は最後にこう言った。
「まずは危険なオートマトンを破壊して平穏な暮らしを取り戻してくれや。それにな、あいつらがこんな危険なオートマトンを造らなかったらこんな迷惑は感じんで済んだんだ。コグー一家に迷惑に見合うペナルティを与えてくれや」と。
数時間受付で粘られて、根負けしたナッツ・クランの担当者はペナルティはともかく、このオートマトンをリスキーモブとして登録したらしい。
「ペナルティっていったって、何か裁ける法律でもあるの?」
他人に迷惑をかけるためにわざと作ったならともかく、機械にありがちな故障やエラーでいちいち罪に問われていたのでは誰も職人になりたがらないだろう。ナッツ・クランの担当者も眉を寄せて腕組みして唸っていた。とにかく、原因が分からなければペナルティも何もない。倒すことに成功したら製作したコグー一家にも立ち会ってもらって、解体して中を調べる必要があるという結論になり、あたし達が派遣されたという訳だ。
倒したインドミタブルを荷台に乗せたあたし達はその日の夕方、事務所へと戻ってきた。事務所のある建物の門をくぐると担当のクラン職員が丁度中から出てきたところだった。あたし達を見つけた彼は小走りに近づいてきて言った。
「勘が当たったよ。ドワーフは昔から二つの派閥に分かれて対立してるってきいてたから調べてみたんだが、やっぱりアミティーとコグーはお互い対立する派閥に所属していたんだ」
あたし達は動かなくなったオートマトンをナッツ・クランの倉庫へと運び込んだ。
数時間後、呼び出されたアミティーの男がやってきた。どうやら緘口令を敷いたお陰でまだ何も知らないらしい男は威張り散らして事務所に入ってきた。
「リスキーモブになったんだから俺を呼び出してる暇があるならさっさと狩ってこいよ」
イキリ捲いたドワーフがドッカと椅子に座りふんぞり返る。
「いえね、少々確認させて頂きたいことがありまして…」
担当がそう言いながら目配せをするとそれを合図に解体作業を自ら行ったコグー一家の技術者が黒い小さな箱を持ってアミティーのドワーフに近寄るとカウンターに叩きつけるように箱を置いて怒鳴った。
「これがうちのオートマトンに付いてたんだが、うちが対立してるアミティー製のパーツ使うわけないのはわかるよなぁ?」
さっきまで偉そうにしていたドワーフは急に黙り込んで元々小さい体をさらに小さくした。